平成23年度大阪優秀発明大賞


受 賞 決 定


 当事業は、昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しております「大阪優秀発明大賞」の受賞者が過日決定されました。なお昨年度より中小企業の優秀な発明を奨励するために「大阪ものづくり発明大賞」が新設されています。
 本年度は厳正なる審査の結果、大賞1件、発明賞3件、功績賞1件、大阪ものづくり発明大賞1件を決定し、平成23年1月27日(木)大阪大学中之島センターにて表彰式が挙行されました。
 
   


平成23年度大阪優秀発明大賞 (敬称略)

 
 「超高強度高合金油井管」 (特許第4288528号)
    乙 刀@陽 平 (住友金属工業株式会社)
    五十嵐 正 晃 (住友金属工業株式会社)
    天 谷   尚 (住友金属工業株式会社)
    岡 田 浩 一 (住友金属工業株式会社)

<本発明の概要>

(背景と課題)
 本発明は石油や天然ガスの採掘に使用される高強度高合金油井管に関するものである。 近年、石油や天然ガスの需要の世界的な増加や原油価格の高騰に伴い、高深度で苛酷な腐食環境下にある油井や天然ガス井の開発が盛んに進められている。このような井戸において、採掘に使用される油井管には高強度で優れた耐応力腐食割れ性が求められる。特に過酷な腐食環境においては、オーステナイト系の高合金油井管が多く用いられる。通常、オーステナイト系高合金油井管は製管時の冷間加工度を高めることで強度を上昇させる。しかし冷間加工のみでは強度上昇に限界があり、更に冷間加工度の増加は耐応力腐食割れ性を低下させるなどの問題があった。このように高強度化と優れた耐応力腐食割れ性の両立は非常に困難であった。

本発明の特徴
 本発明では固溶強化能、加工硬化能に優れるNを添加し高合金油井管の強度を高めた。しかし単純にN含有量を増加させるだけでは製管時に疵を発生しやすくし、耐応力腐食割れ性も低下させる。本発明ではNと同時に希土類元素を加えることで、高強度化と疵発生や耐応力腐食割れ性低下を防止するという、相反する要求を両立させた。特に耐応力腐食割れ性への希土類元素の影響に関しては、元素添加による転位構造の変化に起因していることを初めて見出したものである(下図参照)。この発明によって、0.2%耐力で965MPa以上の高強度を持ち、かつ多量の硫化水素や塩化物イオンを含む井戸で使用可能な高合金油井管の提供が初めて可能となった。  本発明によって、従来は採掘不可能であった高深度で過酷な腐食環境下にある石油や天然ガスの採掘が可能となる。また高強度化により鋼管の薄肉化が可能となり、従来の井戸でも油井管の使用重量を削減に伴う採掘コストの低減も期待できる。以上の点から、本発明はエネルギーの安定供給に大きく貢献する。

                         



平成23年度大阪優秀発明賞(敬称略)

 
「省資源型高強度電磁鋼板」 (特許第4265508号)
    田中 一郎  (住友金属工業株式会社)
    藤村 浩志  (独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
    仁富 洋克  (住友金属工業株式会社)
    屋鋪 裕義  (住友金属工業株式会社)

 本発明は、Niに代表される高価な合金元素を含有しない省資源型の合金設計を基本とし、圧延加工性を損なうことなく充分な強度と優れた磁気特性を両立させることを目的としてなされたものである。強化機構として電磁鋼板分野では類をみない「転位強化」を採用しており、製品板厚への圧延加工時に導入される「転位」により強度をアップし、製品への熱処理工程にて、その転位量の最適化をはかっている。具体的には、微量のNb、Zr、TiおよびVの単独または複合添加によって転位の合体消滅を抑制し、再結晶部分の面積率を制御することにより、所望の特性を達成している。本発明によれば機械特性、磁気特性を兼備した高強度電磁鋼板を多大なコストアップを招くことなく安定して製造可能であり、環境対応車の普及に不可欠な要件である車両の低コスト化に大いに寄与する。また、高強度化により回転子の設計自由度が大幅に増加するため、磁石形状および磁石埋込位置の最適化が可能となり、駆動モータのみならず家電分野においてもモータ性能の改善が見込まれる。以上の効果より、本発明は今後の適用範囲拡大を通じて、地球環境問題、エネルギー問題の解決に大きく貢献するものと期待される。


 「コンテンツデータ高速検証技術」 (特許第4084827号)
    野仲 真佐男  (パナソニック株式会社)
    布田 裕一  (パナソニック株式会社)
    中野 稔久  (パナソニック株式会社)
    横田  薫  (パナソニック株式会社)
    大森 基司  (パナソニック株式会社)
    宮崎 雅也  (パナソニック株式会社)
    山本 雅哉  (パナソニック株式会社)
    村瀬  薫  (パナソニック株式会社)
    小野田 仙一  (パナソニック株式会社)

 この発明は、大容量データを高速に検証可能な基本技術に関するものである。 ネットワークの高速化、光ディスクの大容量化により、映画館のような臨場感のある映像コンテンツを家庭で気軽に楽しめるようになった。それに伴い、海賊版対策がより重要となってきている。近年最も問題になっているのは、上映映画の盗撮や、映画関係者からの流出により、映画会社から正式に販売される前に違法販売される海賊版コンテンツである。その被害額は年々増加傾向にあり、日本国内だけでも約180億円(平成17年)と推定されている。これは1年間の映画興業収入の約1割に相当する。このような状態が続くと、映画会社が適正な収益を得られなくなり、コンテンツ販売価格の上昇など、エンドユーザが不利益を被ってきた。
 海賊版対策としては、プレーヤにてコンテンツを再生する前に検査を実施し、海賊版と判定されたら再生を開始しないことが有効である。これにより、エンドユーザによる海賊版の購入意欲を失わせ、結果、業者による海賊版の製造動機を下げることが出来る。
 この発明は、下記3点の技術を組み合わせた点に特徴をもつ。
1.製造時に、検証処理の事前計算を実施
2.検証時は全体のうちわずか一部分のみを検証し、残りは事前計算した値を利用
3.検証を行う一部分は、毎回ランダム化して、不正を抑止
 これにより、50ギガバイトもの大容量データを1秒以内で検証できる。  (計算量を約10万分の1に削減)


「薄膜レーザ加工」 (特許第4698200号)
   福田 直晃  (日立造船株式会社)


 電子回路基板製造用レーザ加工には、凹凸の無い溝の形成や複層膜選択加工が不可欠である。しかしながら、微細加工に適したレーザのエネルギー強度分布は正規分布状となっており、このレーザビームを集光させると、焦点スポット中央部のエネルギー密度が非常に高く、中心を離れるにつれエネルギー密度が減少した状態となる。このためスポット中央部にダメージが発生しやすい。本発明は、正規分布状のレーザが有する高い回折性と干渉性を利用して光を一旦分散させ、その光をレンズで合成させてエネルギー分布の均一化と微細集光性を実現させる。さらに、この方法では発生した照射方向へ長距離にわたり高エネルギー密度状態を維持できる特徴があり加工裕度も拡大する。このように微細化と加工裕度拡大が同時に満たされるとともに、電子回路基板製造時の歩留りも大幅に向上する。さらに、様々な用途(接合、切断、アニールなど)に対しても同様の効果が得られることも本発明の特徴の一つである。



平成23年度大阪優秀発明功績賞(敬称略)

    友 野   宏 (住友金属工業株式会社 代表取締役社長)



平成23年度大阪ものづくり発明大賞 (敬称略)

 
 「分電盤用小形避雷器」 (特許第4773701号)
    酒 井 志 郎 (音羽電機工業株式会社)


(背景と課題)
 本発明は、落雷による雷サージ(雷過電圧、雷過電流)から電気設備を保護する避雷器の小型化と経済化を図るものである。 落雷で広範囲に被害が発生するのは誘導雷で、この雷サージの流入出するところに避雷器を設置することにより被害を防止できる。このうち電力線からの雷電流の流入出による被害を防止するために、一般的には分電盤(引込盤)に避雷器が設置されている。最近、機器の小型化傾向に合わせて、分電盤等についても小型化と低コスト化が図られている。これに伴い分電盤内での避雷器の取付スペースは狭くなっている。また、既存の設備に後付けする場合では、避雷器を取り付けるスペースは限られている。このため狭い取付スペースにも取り付けられる小型で、高性能な避雷器の要求が高まってきている。 従来、分電盤内の三相3線式電源回路に用いられる避雷器の回路構成は、図1のように各相の相間及び対地間にそれぞれ1つ、計6個の避雷器を組み込み、雷サージに対する保護回路を構成していた。三相受電系では避雷器が多くなることから、分電盤内での避雷器関連占有面積が大きな割合を占めていた。 小型化と高性能な避雷器を実現させるためには、避雷器の性能である制限電圧値とサージ耐量値が重要性能となり、制限電圧を低減し、尚かつ大きな雷サージエネルギーを確実に処理させれるようにすることである。そのためには、形状の大きな避雷素子(バリスタ)を組み込む必要がある。

本発明の特徴
 本発明では図2に示すように、各相及び対地間に合計4個の避雷素子による簡素化した回路構成を考案した。図2の回路構成により、各相間及び、対地間の避雷素子を共通化することができ、従来と同等の高性能な保護効果を実現させている。また、避雷器筐体内に4個の避雷素子を収納させ、避雷器の小型化を図って、その経済化も実現させた。