平成21年度大阪優秀発明大賞


受 賞 決 定


 当事業は、昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しております「大阪優秀発明大賞」の受賞者が過日決定されました。なお今年度より中小企業の優秀な発明を奨励するために「大阪ものづくり発明大賞」が新設されました。
 本年度は厳正なる審査の結果、大賞1件、発明賞4件、功績賞1件、大阪ものづくり発明大賞1件を決定し、平成22年1月25日(月)ホテルグランヴィア大阪にて表彰式が挙行されました。
 
   


平成21年度大阪優秀発明大賞 (敬称略)

 
 「セキュアな記録領域をもつ光ディスクと記録再生装置」 (特許第3042780号)
    大 嶋 光 昭 (パナソニック株式会社)
    田 中 伸 一 (パナソニック株式会社)

    守 屋 充 郎 (パナソニック株式会社)
    小 石 健 二 (パナソニック株式会社)
    後 藤 芳 稔 (パナソニック株式会社)

<本発明の概要>

(背景)
 映像コンテンツのデジタル化にコピー回数を制限する著作権保護技術が記録型光ディスクに求められた。またROM(再生専用)型光ディスクにおいてはインターネット接続時の認証IDを記録する技術が求められた。これらを実現するには、改ざん・偽造出来ない、つまり“セキュア”で1枚毎に異なるID情報を光ディスクに記録する新規な技術が必要となった。

(課題)
 当時はROM型光ディスクにデータを記録する技術は実現されていなかった。一般の低出力レーザーでは反射膜のアルミの融点と反射率が高く記録できなかった。一方、高出力レーザーで記録すると基板が破壊されたからである。

(着眼点)
 高密度化のため基板を薄くし2枚貼り合わせる構造の光ディスクの場合、反射層の上下に基板があるため破壊が緩和される点に注目した。
 半径方向に長いストライプ形状のマーク(図2)を記録すると、融解した反射膜が”表面張力”により演習方向の両端側に異動する”表面張力記録”(図3)を発見し、安定して記録する技術を発明した。高出力レーザーを極めて短い時間照射することにより、熱で融解した反射膜が表面張力により瞬間的に移動するため、保護層や基板に損傷を与えない。

 各社の光ディスクを用いて記録後の長時間耐久試験を行い、信頼性を実証することにより、まずBCA(バーストカッティングエリア)の名称でROM型のDVDやブルーレイディスク規格に採用された(図1)。その後、記録型のDVDやブルーレイディスク規格にも採用された。

(効果と実施状況)
 DVDやブルーレイの記録型光ディスクには、本発明のBCA領域に1枚毎に異なる固有IDが記録されている。この固有IDは改ざん・偽造が出来ないため、完璧なデジタルコピー回数の制限が可能となり、CPRMやダビング10を実現することができた。これによって、デジタルTV放送のコンテンツをDVDやブルーレイの光ディスクに記録できるようになった。BD-Liveのようにインターネット接続に対応したブルーレイのROMディスクには、本発明のBCA領域に1枚毎に異なる接続認証用IDが記録され、ユーザー毎に異なるインターネットサービスが、セキュアに提供されており、この新しいサービスも拡がりつつある。

                

図1.本発明(BCA)のディスク上の配置図   図2.BCAストライプの拡大図



  
 
         図3.表面張力記録の原理                  図4.本発明を使用したBDレコーダー
       



平成21年度大阪優秀発明賞(敬称略)

 
「新しい結晶を利用した巻き込まれ難い連続鋳造用モールドパウダー」 (特許第3637895号)
    塚口 友一  (住友金属工業株式会社)
    花尾 方史  (住友金属工業株式会社)
    川本 正幸  (住友金属工業株式会社)
    林  浩史  (住友金属工業株式会社)


 本発明は、シームレスパイプの素材である丸断面鋳片(丸ビレット)を連続鋳造する際に用いられるモールドパウダーに関するものである。溶鋼の熱によって溶融ガラス状になったモールドパウダー(溶融パウダー)は、鋳片と鋳型との間に流入してフィルム層を形成し潤滑剤や冷却緩和剤として働く。また溶融パウダーは、溶鋼内部に巻き込まれて鋳片に疵を生じる問題がある。上記の冷却緩和剤としての作用は、フィルム層が鋳型で冷やされ結晶化して不透明な輻射伝熱遮蔽層を形成することによって生じる。この作用には、安定した結晶析出が重要なポイントである。また、溶鋼内部への巻き込みを防止するには、溶融パウダーの粘性および溶鋼との界面張力を高めることが有効である。従来は、これらの3つの条件(安定した結晶析出、高粘性、高界面張力)を同時に満たす方法が無く、界面張力が低いモールドパウダーを使用していた。
 界面張力上昇には溶鋼中の脱酸元素であるAlMn等に還元されない化学的安定性、具体的にはモールドパウダーの主成分であるCaOSiO2において還元され易いSiO2の比率が小さいこと(高CaO/SiO2比)が求められる。高CaO/SiO2比の組成を維持して粘性を高めるには、Al2O3の濃度を増すことが有効である。本発明においては、高CaO/SiO2かつ高Al2O3濃度の組成に適した析出結晶を、X線を用いた結晶同定や結晶構造の調査を行って探索した。その結果、適した単一の結晶は無かったが、結晶構造が酷似しているゲーレナイト(2CaOAl2O3SiO2)とアケルマナイト(2CaOMgO2SiO2)とを組み合わせて析出させる方法を考案した。これら2種の結晶は、自由な割合で混ざり合って実質的に1種類の結晶(メリライト)として振る舞い、安定して析出すると考えた。上記発明を具現化するモールドパウダーを設計して丸ビレットの連続鋳造に適用した。その結果、フィルム層の結晶化(鋳型内の冷却)を安定させることに成功し、モールドパウダー巻き込み疵が約1/101/30に減少する顕著な成果を得た。


 「家庭用燃料電池用小型改質装置」 (特許第4063430号)
    神家 規寿  (大阪ガス株式会社)

 CO2削減や省エネのため、発電効率の高い家庭用燃料電池コージェネシステムの開発ニーズが高まりつつある中、燃料電池の直接の燃料となる水素を、家庭用の都市ガスやLPGなどから取り出す技術、すなわち家庭用の安価で小型高性能な「改質装置」の実用化が急務とされていた。従来、都市ガスやLPGら水素を取り出す反応装置は、産業用などの大型プラントに見られたが、複数の反応器の個別設置であったことから、設置面積が大きく、家庭用としてそのまま小型化するには不適当であった。また、複数の反応器を、多重円筒缶として複合化した試作機も見られたが、多くの異径管が必要なこと、内部構造が複雑なこと、溶接や組立て、触媒充填における自動化が困難なことなどから、コスト高となり、家庭用として大量生産に不向きである課題があった。
 本発明は、都市ガスやLPGなどの燃料から水素を取り出すための複数の反応器、すなわち、燃料ガス中の付臭分を除去する脱硫反応器、炭化水素を水素と炭酸ガスと一酸化炭素に改質する水蒸気改質反応器、一酸化炭素を水素と二酸化炭素に変成する変成反応器、さらに、燃料電池の直接燃料となる水素含有ガス中の一酸化炭素を10ppm未満にするCO除去反応器、改質反応に必要な水蒸気を作るボイラー、および脱硫燃料と水蒸気を予熱する熱交換器を、プレス加工と自動溶接で作ったほぼ同じ中空プレート容器(プレートエレメント)で構成し、これらを積層し、一体化した世界で初めての構造である。このため、反応器の成形加工と溶接、組み立てがほとんど自動(ロボット)で行えるため、大量生産した場合、製造コストが格段に安くなる特長がある。また、各反応器は、反応温度が違うため、通常、個別の温度制御が必要となるが、本発明においては、反応器類の間に適宜、伝熱体を設けたうえで積層、一体化しているため、最高反応温度(650)である改質反応器と、最低反応温度(約100℃)であるCO除去器の2点のみの制御が可能であり、その為、制御で遺失するエネルギーが最小限となり、熱効率が高い特長も有する。



 「高機能樹脂フィルム成型用ロール」 (特許第3194904号)
    古橋 善男  (日立造船株式会社)
    黒田 哲郎  (日立造船株式会社)
    坂根 作裕  (日立造船株式会社)

    宮本 紳司  (日立造船株式会社)

 光学、IT、太陽電池、自動車等の先端分野で、各種のプラスチックシ−ト・フィルム製品が多用されている。いずれの分野においても、軽量・薄肉、低残留歪、表面転写性、高い厚み精度が要求され、かつ目標数値は非常に高い。従来、300μm厚以下のフィルム成形法として、挟圧ロ−ル押出成形法(金属ロールまたはゴムロールを使用)があるが、金属ロールの場合、金属の剛性により均一な圧着ができず残留歪が残る。また、ゴムロールではフィルムの光沢性・透明性が劣る等の課題があった。
 現在、当社が納入実績を重ねている、本発明による金属弾性ロ−ル(UFロ−ル:商標登録済)は、可撓性の薄肉金属製外筒を有す二重管構造とすることで、金属およびゴムロールの欠点を解決した。ロール表面が金属であることから、フィルムに対して鏡面およびエンボス模様の転写を、高精度で行うことができる。一方、成形時に、薄肉金属が弾性変形することで、金属を用いながらも、残留歪がなく光の乱反射や複屈折現象のない光学用フィルムを製造することができる。また、ロール形状を、中央部が膨らんだ太鼓状に、かつ両端部を薄肉化することで、フィルム厚さの均一性が向上した。このように、UFロールを用いた挟圧ロ−ル押出成形により、金属ロール特有の鏡面性・透明性、高速成形性を維持しながら、ゴムロールでしか得ることのできなかった低残留歪の光学用フィルムを市場に供給することが可能になった。



 ・「一心双方向光モジュールとその組立方法」 (特許第4254803号)
   中西 裕美  (住友電気工業株式会社)
   岡田  毅  (住友電気工業株式会社)
   工原 美樹  (住友電気工業株式会社)


 本発明は光ファイバを用いた高速通信が可能な、ユーザーと局を結ぶFTTHシステムに使用される「一心双方向光モジュール」に関するものである。一心双方向光モジュールは、光ファイバ1本に上り/下りの信号光を重ねて通信する機能を有し、光ファイバ、送信デバイス、受信デバイスと各々の光結合用レンズ及び異なる送受信波長を分波する光学フィルタ等から構成される。内蔵する光学フィルタは、光ファイバと送信デバイスを結ぶ光軸に対し、正確に45°に配置する必要がある。そうでないと、角度ずれによって受信デバイスの感度やフィルタの分波特性に悪影響を与えてしまう。従来の構造では位置調整によりこの角度を決定していたため、部品点数が多く、調整コストが掛かっていた。したがってこれら部品点数の削減、筺体の加工精度の向上と光学フィルタ組立・調整時間の短縮が、一心双方向光モジュールの低コスト化のための大きな課題であった。
 本発明では、筺体自体に光学フィルタ固定用斜面を配置した。光学フィルタ固定用斜面は、受信デバイス固定部を形成する平面に、光路孔と交差し光ファイバ固定部に達する傾斜溝を45°の角度で、受信デバイス固定部の一部と光ファイバ固定部の一部を連続して切り欠いて光学フィルタ固定用斜面を形成した。
 この筺体は、NC施盤機を用い1回のチャッキングですべての加工が行えるようにしているため、加工時間も短く、加工機の精度によって、45°の傾斜が+/-0.5°以下の精度で形成できる。さらにこの構造では、光学フィルタ固定面が上方に180°開放されているので、光学フィルタをまっすぐに降ろしてフィルタ固定用斜面に押し付けることにより、短時間で高精度に、角度制御された光学フィルタが固定でき、部品点数が削減され、組立時間も短縮された。本発明により、低コストな一心双方向光モジュールが実現でき、FTTHの普及に大きく貢献できた。


平成21年度大阪優秀発明功績賞(敬称略)

    大 坪 文 雄 (パナソニック株式会社 代表取締役社長)


平成21年度大阪ものづくり発明大賞 (敬称略)

 
 「高効率石炭粉砕竪型ミルローラ」 (特許第2863768号)
    河 津   肇 (アイエヌジ商事株式会社)


(背景と課題)
 本発明は石炭、石油コークス等の化石燃料を粉砕する竪型粉砕機の粉砕ローラに関するものである。既存の粉砕ローラは、その破砕面が平滑面で構成されているため、特に粉砕原料が硬質で高水分含有量の場合、噛み込み性が悪くなり、粉砕ローラがスリップを発生してミル自体に大きな振動を発生させ粉砕操業を困難にしている。その結果、粉砕能力が低下して所定の粉砕量が確保出来ず、さらに微粉の粉砕量が低下したため燃焼効率が悪くなり二酸化炭素排出量が増加して環境問題を引き起こす原因になった。また粉砕操業において無駄な動力を消耗していた。

(本発明の特徴)

 本発明ローラは使用時、ローラ破砕面に自動的にスリット溝が形成され、その溝が自然のあたりで粉砕原料の噛み込み性を改善し、粉砕量や微粉粉砕量の増加、ミルの振動防止、ミルの軸電力の低下による電気ネルギーのコスト低減をもたらした。石炭粉砕に関し、安価な硬い粗悪炭の粉砕をその噛み込み性能により安定粉砕し、約20%以上の粉砕量の増加、約30%以上の完全燃焼に貢献する微粉度の増加、粉砕機自体の消費エネルギーの低減等に多大の貢献をもたらす技術であり、単にローラ破砕面形状を細工するだけで従来得ることが出来なかった顕著な付加価値を生み出した。例え、1台の石炭粉砕機による炭酸ガス排出量の削減が僅かとしても、世界中の石炭火力発電所、製鉄所、セメント工場等で本発明ローラが採用されるならば、莫大な量の二酸化炭素排出削減に貢献することが期待される。特に石炭消費量が多い発展途上国に本技術の採用を推奨すれば効果を著しく発揮するものと思われる。

       

   図1.1 既存の平滑面を持つ高Cr鋳鉄ローラー         図1.2 特許硬化肉盛スリットローラー