平成19年度大阪優秀発明大賞


受 賞 決 定


 当事業は、昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しております「大阪優秀発明大賞」の受賞者が過日決定されました。
 本年度の応募件数は11件で、厳正なる審査の結果、大賞1件、発明賞5件、功績賞1件を決定し、平成20年1月21日(月)ホテルグランヴィア大阪にて表彰式が挙行されました。
 
   


平成19年度大阪優秀発明大賞 (発明者敬称略)

 
 「精密ダイヤモンドワイヤーソー」 (特許第3078020号)
    菅 原   潤 (住友電気工業株式会社)
    溝 口   晃 (住友電気工業株式会社)

    上 岡 勇 夫 (住友電気工業株式会社)
    大 下 秀 男 (株式会社アライドマテリアル)
    山 中 正 明 (株式会社アライドマテリアル)
    小 川 秀 樹 (株式会社アライドマテリアル)
    浦 川 信 夫 (株式会社アライドマテリアル)
    吉 永 博 俊 (株式会社アライドマテリアル)

<本発明の概要>

(背景と課題)

 本発明は、ネオジウム、サファイア、ガラスなどの磁性材料・硬脆材料のインゴットを高速切断加工するためのワイヤー工具に関するものである。近年、上記インゴットの切断加工において、コストダウンや歩留の向上と併せて環境面での改善が急務となっている。従来の油性スラリーを用いた遊離砥粒方式では、@加工精度、加工能率が低い、Aスラッジが発生し作業環境が悪い、B加工後の工作物の洗浄、分離や廃液処理が面倒、などの課題を抱えていた。これら課題を改善するため、電着などによる固定砥粒型ワイヤー工具の検討がなされてきたが、長尺品の製造が困難であることや製造コストが高いなどにより工業ベースで使用されるに至っていないのが現状であった。

(本発明の特徴)

これらを解決するため、耐熱樹脂材料の連続塗装技術等を応用し、ダイヤモンド砥粒を樹脂で鋼線表面に連続固定した精密ダイヤモンドワイヤーソーを開発し、工業レベルで使用可能な長尺品を安価に製造できる製法を確立した。このワイヤーソーの主な特長は、@常時一定のダイヤモンド砥粒が作用し、また遊離砥粒方式に比べワイヤーテンションを上げられるため、ワイヤーのたわみが小さくなることにより、加工の高精度、高性能化が図れる、A砥粒の固定化によりスラッジの発生を抑え、作業環境が大幅に改善される、B水溶性研削液を使用するため、加工後の洗浄や廃液処理が容易になる、ことである。本製品は、既にネオジウム、サファイア、ガラスなどの切断加工などに幅広く利用されており、遊離砥粒方式に比べて2〜3倍の加工能率が得られている。また、工業用途にとどまらず、奈良県明日香村キトラ古墳で、本製品を使用することにより、今まで困難とされていた壁画漆喰剥ぎ取りに成功するなど、貴重な歴史文化遺産の保存に貢献しており、今後も、様々な分野における有力なソリューション・ツールとして、本製品の用途が拡大していくものと期待している。


        



平成19年度大阪優秀発明賞(発明者敬称略)

 
「溶接成型突起付き鋼管とその製造方法」 (特許第3926326号)
    増田 敏聡  (住友金属工業株式会社)
    平野 浩一  (住友金属工業株式会社)
    日下 裕貴  (住友金属工業株式会社)
    浅野 昌志  (住友金属工業株式会社)


 土木あるいは建築分野において、鋼管にコンクリートを充填したり、鋼管をコンクリートの内部に埋め込む合成構造が用いられており、これらの鋼管とコンクリートとの合成構造においては、鋼管とコンクリートとの付着力を高めるために、鋼管の表面に突起を設けることが行われている。その鋼管の表面に突起を形成する方法の1つとして、肉盛溶接が従来から用いられているが、溶接金属に作用する重力により溶接金属が広がってしまい、形成される突起(肉盛溶接ビード)の高さと幅の関係が自ずから制限されていた。すなわち、従来方法では扁平な形状の突起しか形成することができなかった。
 本発明の鋼管の製造方法は、鋼管の内面または外面に一対の当て板を間隔をおいて配置し、これらの当て板および溶接トーチを鋼管の内面または外面に対し相対移動させつつ、これらの当て板間に肉盛溶接する溶接成型突起付き鋼管の製造方法である。鋼管の内面または外面に溶接肉盛と同時に当て板で所定の形状に成型を行う技術は世界初の技術である。


 「照明装置」 (特許第3809747号)
    蒲原  泰  (松下電工株式会社)

 一般に、照明に用いられている放電灯の光束は使用時間の経過とともに低下する。つまり、放電灯の使用時間の経過とともに照度が低下する。このような照度の変化を補正する技術としては、光源の点灯時間から光束減退率を算出する光束演算手段と、光束演算手段に基づいて調光量を補正する調光補正手段とを備えるものがあるが、その先行技術においては、放電灯の交換時に計時した点灯時間をリセットしなければならないという課題があった。
 本発明は、放電灯と、放電灯を点灯させるとともに放電灯への供給電力を制御可能な放電灯点灯装置と、放電灯点灯装置への給電時間を放電灯の点灯時間として計時する点灯時間タイマと、放電灯の点灯時間の経過に伴う光束低下を抑制するように点灯時間タイマにより計時された点灯時間に応じて放電灯への供給電力を放電灯点灯装置に指示する照度補正装置と、放電灯のエミレス状態を検出する手段と、エミレス状態が検出されると点灯時間タイマをリセットするリセット制御部とを一つの器具に備えることによって、放電灯の交換時に計時した点灯時間を自動的にリセットすることができ、リセット忘れを防止することが可能にした。



 「LCフォント生成技術」 (特許第3552105号)
   岡田  哲  (シャープ株式会社)
   小山 至幸  (シャープ株式会社)
   朝井 宣美  (シャープ株式会社)


 携帯電話などの携帯機器において一般的に利用されているビットマップフォントは、斜め線や曲線がギザギザであり、印刷文字に比べて滑らかさにも欠けるため、ユーザにとっては読みづらいものになりがちであった。
 そこで、同発明者は、液晶のRGBサブピクセルの構造を利用した階調処理により滑らかな文字表示を実現する技術を考案したが、本技術は文字の骨格を表すストロークデータに基づいて表示イメージを展開する方式であり、CPUやメモリに十分なリソースが必要であるため、リソースに制約のある携帯機器に採用することは非常に難しかった。

 本発明は、従来実現できなかったビットマップフォントに対しても、階調処理を施すことにより液晶画面上に滑らかで美しく見やすい文字表示を実現するための技術であり、携帯電話のようなCPUやメモリリソースに制約のある携帯機器においても簡単な処理により滑らかで見やすい文字表示を実現できるようになった。


 ・「ノンコートエアバッグ用織物」 (特許第3248581号)
   小西 辰男  (東洋紡績株式会社)
   北村  守  (東洋紡績株式会社)


 自動車安全部品の一つとしてのエアバッグは乗員の安全意識の向上に伴い、急速に装着率が向上している。エアバッグ袋体はナイロン66繊維を用いた織物を裁断・縫製して製造されるが、その織物には機械的特性(高強度)、耐熱性、空気遮断性(通気度)等が要求され、また近年の車体の軽量化に伴いエアバッグ袋体にも軽量、コンパクト性の要求がある。
 従来から、エアバッグ用織物としてはシリコーン樹脂などを塗布したコーティング織物が使用されていたが、コーティング織物は表面の樹脂のため、織物重量の増加、柔軟性の低下、製造コストの増加、リサイクル不可などの問題があった。そこで、コーティングを施さないノンコートエアバッグ用織物が検討されてきたが、ノンコートエアバッグ用織物では、コーティングなしに空気遮断性を可能にするために、織密度を織機で可能なまで上げて製織する必要があり、織機への負荷が大きくなって生産性に問題があり、織物を構成する繊維に損傷を与えやすくなり、得られた織物の機械的特性の信頼性に問題があった。

 本発明は、多段階で温度差を設け乾燥し、かつ織物の張力が常に一定になるように張力コントロールを施すことによって、織物の持つ収縮応力を無理なく発現させることで柔軟性を与え、また、高収縮の繊維を用いて無理のない織密度で製織し、その後の収縮工程で高密度織物を製造することで、製織時の繊維へのダメージを極力抑えることもできるため、信頼性の高い織物を得ることができる。

 ・「パワーモジュール用高熱伝導基板」 (特許第3312723号)
   中谷 誠一  (松下電器産業株式会社)
   半田 浩之  (松下電器産業株式会社)


 近年、社会的要請として電子機器の省エネに対する関心がますます高まっており、その電源回路の小型、高効率化が最重要課題となっている。電源回路は発熱部品と、生じた熱を速やかに放熱するための基板から成り立っており、従来においては熱伝導性に優れるセラミック基板と、比較的省電力用途の金属ベース基板が使用されている。セラミック基板は高価で民生用機器には向かず、金属ベース基板は熱伝導性が悪いため部品から発生する熱を速やかに放熱させることができず、また絶縁層が薄いために静電容量として作用しノイズ特性の面で問題があった。また絶縁耐圧の面でも問題があった。
 本発明は、高い熱伝導性を実現するため熱硬化樹脂に無機フィラーを高充填し、かつ可トウ性を保持した熱硬化樹脂シートを発明し、併せて本シートと大電流に対応できるリードフレームと一体成型する新構造の高熱伝導基板から構成されている。これにより、従来の金属ベース基板と比較して2.5倍の熱伝導性を確保し、部品の発熱を極力抑制することにより電源回路やパワーモジュールじの小型化、低背化を実現、大電流に対応できるリードフレームの採用によって、導体抵抗ロスが小さくなり、電源回路の高効率化を可能とした。

平成19年度大阪優秀発明功績賞

    松 本 正 義 (住友電気工業株式会社 代表取締役社長)